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食い逃げされてもバイトは雇うな 禁じられた数字 <上>/「食い逃げされてもバイトは雇うな」なんて大間違い 禁じられた数字 <下>

食い逃げされてもバイトは雇うな 禁じられた数字 〈上〉 (光文社新書)

食い逃げされてもバイトは雇うな 禁じられた数字 〈上〉 (光文社新書)

「空気が読めない」人をKYと呼ぶように、「数字が読めない」人をSYと呼ぶそうですが、本書ではSYなビジネスマンにならないためのポイントが手短に解説されています。「手短に」というのは、筆者曰く、1時間で読み切れる本を目指して書いたとのことで、上下合わせても2,3時間で読み切れる分量になっているからです。

毎年3月になると、色々な週刊誌で「全国高校 東大京大合格者数ランキング」というような特集が組まれます。かつて、自分が高校生だったときに、一学年の人数が、学校によって100人ちょっとから、1000人以上いる高校まであるのに、それらを一律に「合格者数」という絶対値で序列化することは無意味ではないかと思っていました。つまり、1学年200人の中から30人の東大合格者数が出る高校と、1学年1000人から30人の合格者を出す高校を同じ順位としてしまうようなランキングに意味はないのではないかということです。

  • 節約や会社の成長は、パーセンテージではなく金額で考える。
  • インパクトの強い関係のない数字は、数字が苦手な人を思考停止させるにはもってこいの便利な道具

<女子大生会計士の事件簿>世界一やさしい会計の本です

<女子大生会計士の事件簿>世界一やさしい会計の本です

<女子大生会計士の事件簿>世界一やさしい会計の本です

上掲書と同じ山田真哉さんの著書ですが、こちらは「数字」ではなく、会計入門の本です。ビジネスマンに必要な会計の知識として、(簿記のテキストのような)決算書を「作る」という視点ではなく、決算書から企業の状態を把握するために、決算書を「読む」という立場から、解説がなされています。
そもそも、本書を読んだ動機が、会社の研修コースで指定されていたから、という程度だったこともあって、今回の読書からは、個人的には、あまり得るところがありませんでした。でも、簿記の勉強を始める前に本書を読んでいたら、理解がずっと早かっであろうとも思いました。まったく知識のない状態で会計や簿記の勉強を始める人には良書かもしれません。
ところで、文章だと説明しにくいのですが、山田さんは、初心者が理解しやすいように、貸借対照表損益計算書の借方・貸方を、本の途中までは、それぞれ木、水、火、金に置き換えて説明しています。このような部分は、少しでも簿記の勉強などをかじった身分からすると迂遠に感じられて、かえってわかりにくいような気がしました。

  • 決算期末・中間決算期末には、現金や有価証券の金額を確定させるために現物調査、僕らの業界用語で言う「実査」を行うのである。
  • 簿外現金とは、会計帳簿に載っていない現金のこと。裏金のことである。
  • 税効果会計とは)企業会計税務会計との違いを調整する会計テクニック
  • 流動資産÷流動負債=流動比率
    • すぐに支払えるだけの元手はあるか、どれだけ現金化できる資産を蓄えているか、ということを調べる。そうすれば、その会社の支払能力がわかるのである。
  • 売上債権÷月間売上高=売上債権回転期間
    • 売り上げた金額が平均何ヶ月後に現金化されるかがわかる。
  • 3つの型を覚える
    1. 「割り算」を使う
    2. 「大きな数字」に注目する
    3. 「お金の回転」をイメージする

「1秒!」で財務諸表を読む方法―仕事に使える会計知識が身につく本

タイトルから受ける「軽め」の印象とは異なり、内容が充実していておもしろかったです。
「世界一やさしい会計の本です」と同じく、ビジネスマンが財務諸表を読む上でのポイントを説明した本なのですが、単に経営指標を説明するにしても、経営コンサルタント、そして大学教授としての著者の主張が根底にあるせいか、教科書的な説明から一歩踏み込んだ解説がなされているので、理解しやすかったと思いました。

中でもおもしろかったのが、純資産と負債の調達コストの比較についての一節です。
(有利子)負債のコストとして金利があるのに対して、一般的には、純資産の調達コストは配当のみであると考えている人が多いのではないでしょうか。私もそう思っていました。しかし、著者によると、実際には、配当なども含めた「株主の期待利回り」をコストとして考える必要があります。投資家の視点で考えてみれば当たり前のことですが、わざわざその会社に投資をする以上、その期待利回りは、ローリスク資産である国債金利を上回る必要があるというのが理由です(その差となるのがリスクプレミアム)。これを考えると、負債よりも純資産の方が調達コストが高くつくことになります。
WACCという指標は、"Weighted Average of Cost of Capital(加重平均資本調達コスト)"の略で、負債と純資産の調達コストを、総資産の構成比率に応じて加重平均したものです。純資産の調達コストは有利子負債の調達コストを上回るので、株主資本比率が高まると、それに従ってWACCも高まります。ここで、企業のROA*1、WACCを上回る必要があるわけですが、高い株主資本比率によってWACCが高くなると、達成すべきROAも高くなってしまい、経営上のハードルが高くなるのです。
花王は、カネボウの化粧品部門を買収する際に、ほとんどの買収費用を借入金で賄いました。筆者は、その理由を、買収以前の花王自己資本比率が高かった(65.1%)ことから、このWACCとROAの比率によって説明しています。

なお、せっかく人目を引く上手な書名を付けてあるのを邪魔してしまうのは申し訳ないので、おそらく一番気にする人がおおいであろう、「1秒!」で財務諸表の何を読むのか、という点については、あえて、ここでは触れないでおきます。

  • ROEは、1. ROAを高める 2. 財務レバレッジを高める ことにより上がります。
  • 子会社以外のグループ企業、たとえば「関連会社」については、各勘定科目の合算はありません。「持分法」が適用される場合には、その持ち分に応じた損益が、損益計算書の「営業外損益」に計上されるだけです。
  • 売上原価と製造原価は違うということです。製造原価とは、作った製品にかかった費用です。それが、なぜ、売上原価と違うかというと、損益計算書で損益を計算する際に売上原価となるのは、「売れた分だけの製造原価」だけだからです。
    • 製造業で不振に陥った企業の場合には、損益計算書上は表面的には利益が出ていても、貸借対照表上の棚卸し資産を必ずチェックしなければなりません。
  • 企業経営の安全性の指標のひとつに「インタレスト・カバレッジ・レシオ」というものがあります。これは、支払金利の何倍の営業利益を上げているかということを示しています。
  • 固定費のかなりの部分を占めるのが「減価償却費」
  • 減価償却費のように、過去の投資などの意思決定でその後のコストが決まってしまうものを「コミッティッドコスト」と言います。
  • 全部原価計算損益計算書では、たくさん作って在庫を増やした方が、利益額が増加することがある
    • 在庫増加覚悟で作れば作るほど、固定費が一旦資産として計上されるため、「表面的な」利益が膨らむという欠点が生じます。財務会計は、この欠点を分かっていながらも、売上高と費用の時間的一致によるメリットの方を優先している
    • ただ、企業のパフォーマンス、特に製造におけるパフォーマンスなどを、企業内部で正確に把握するには「直接原価計算」の考え方を導入する必要があります
    • (直接原価計算のデメリット)
    1. 固変分解が難しい
    2. 製造原価が正確に把握できない点です。固定費をすべて期間費用としてとらえるために、在庫としての価値は、変動費だけの価値となってしまいます。
      • したがって、製品1個あたりの原価を正確に把握するためには、再度全部原価計算を行う必要があります。直接原価計算だけでは、製品1個あたりの正確なコストの把握が難しいため、製品価格の設定が難しいのです。

お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践

お金は銀行に預けるな   金融リテラシーの基本と実践 (光文社新書)

お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践 (光文社新書)

本書の主張は一つです。ワークライフバランスを向上させるために、そして国や会社に頼り切らない生き方をするためにも、誰もが資産運用をする必要がある時代になったが、適切な運用益を得るためには、謙虚な学習と、感情を排した冷静な投資行動が求められている、ということです。
本書では、その主張について、筆者が具体的な方法や考え方を説明しています。とりたてて、読後に印象に残ったメッセージは:

  1. 分散投資すべし
  2. プロとアマには情報量からして差がありすぎるのであって、そのプロにとっても困難を極める、為替相場や個別銘柄の上下を読む競争に、生半可な勉強でチャレンジすべきではない。まずはインデックス型のファンドから始めるべし
  3. リスクとリターンを見積もるための方法を知れ。安易で無責任な「投資入門書」に書かれているような、1年で2桁のパーセンテージで儲かるなどということが書かれているが、それは夢のような話で、実現性が低い。メディアの注目を浴びているような、大儲けしたデイトレーダーなどというのは、あくまで、ごく一握りの存在であるし、成功を収めるためには、1日中株式取引に集中できる環境が必要なので、普通の人が会社に通いながら同じ成果を目指すのは無謀すぎる

の3点がありました。良心的な投資本、といった印象です。

  • 私は、日本でリスクの概念を説明するのが難しいと常々感じています。その理由は、多くの人がリスク(risk)と危険(danger)を一緒にして考えているためです。リスクというのは、あくまで計量可能で、コントロール可能なものを指します。
  • (401kという制度は)これまでは企業側が背負っていた資産運用の利回りのリスクを従業員に押しつけてしまうための制度
  • 死亡保障は定額保険が主流のため、本当に必要な額よりも多額の掛け金がかけられていることが多い
    • 子供たちが大きくなり、大学卒業年齢に近づくほど、必要な補償金額は小さくてよいことになります。そのため、私は逓減型の生命保険に入っています。極論すると、私が死亡するときには、葬式代だけが残っていればいいと思っています
  • 私たちが管理できるのはリスクのみで、リターンを管理することはできない
  • 資産のリバランス

*1:この場合は、金利支払前なので、分子の「利益」には営業利益を用いる