インドの虎 世界を変える
- 作者: スティーブ・ハーン,児島修
- 出版社/メーカー: 英治出版
- 発売日: 2007/06/25
- メディア: 単行本
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かつて、「時差のためにアメリカと昼夜が逆転していることがアウトソーシングに有利である点と、低廉な労働力の2点がインドのIT産業が躍進した原因である」という単純なインドIT論を耳にすることがありましたが、最近では、すっかりなりを潜めた感もあります。もちろん、時差や人件費の安さが成長力の小さくない部分を占めていたのは紛れもない事実なのですが、その一方で、時差・人件費仮説からは、人件費の安さだけに注目し過ぎることで、IIT(インド工科大学)出身者に代表される優秀な労働力や、インド企業内での創意工夫に対して十分に注意が払われてこなかったきらいがあります。
もし、時差やコストの安さだけがインド企業の強みだと仮定してしまうと、昨今のインド経済の成長によって人件費の跳ね上がったインド人エンジニアを利用するメリットは、ここ数年で大幅に小さくなってしまったはずです。しかし、実際には、SWITCHをはじめとするインド企業は着実に成長を遂げており、単なる下請けの地位を脱し、コンサルティングや、ボーイングやマイクロソフトといった一流企業から重要な設計業務を担うまでになっています。本書では、Wipro社内の人事制度の解説や、社員へのインタビューなどを通じて、なぜインド企業がグローバル化の波に乗ることができたのかを描いています。躍進の理由は、決して時差と人件費だけではありませんでした。
ところで、私の学生時代の経験ですが、講師としてやって来たある国内コンピューター・メーカーのプロジェクト・マネージャーが、「日本人エンジニアは優秀なので、あうんの呼吸でかゆいところに手が届くような対応ができます。ところが、インドの連中は命令したことしかできないので、誰がやっても同じ結果が出ることでしか利用できないのです。彼らは10年後も下請けだけをしているに違いありません。だから、みなさん(情報系専攻の学生である私たち)が食いっぱぐれることはないから、安心して下さい」と言っているのを聴いたことがあります。別の場所でも何度か同じような話を聞いたことがあるのですが、インド人を上手に働かせることができないのは、使う側のマネジメントにも問題があったのではないかと思います。
ITアウトソーシングに限らず、外国人と会話したり、外国人に仕事を依頼するときは、日本人である我々とは異なる知識フレームワークを相手が持っていることを認識した上で、核となる内容に加えて、背景となる状況などについても十分に補足説明を行う必要があります。しかし、根拠もなく「あうんの呼吸」を期待した挙げ句、そういったことをなおざりにしてしまうと、たとえ優秀な人々であったとしても、インド人の部下たちが、自分たちの言われたことしかしなかった、あるいは、できなかったのは無理もないことだったのかもしれません。そのプロジェクト・マネージャーは、インド人エンジニアに対して、日本人エンジニアにするのと同じような指示のもとで、同じように働くことを期待していたようですが、それは間違いだったのではないかと思います。
つまり、インド人に限らず、外国人エンジニアを利用するためには相応の追加コストを支払う必要があるのは当然のことであり、そうしなければ、そのエンジニアの能力を引き出すことは難しく、また、それを怠ったことにより、かのプロジェクト・マネージャーは、インド人エンジニアの真価を見誤ることに繋がってしまったのではないかと思います。
あくまで伝聞を元にした理解が基本なのですが、新人の私にとっては、インドの人々は重要な競争相手であり、深刻な脅威であるように見えます。