NGNフィールドトライアル

NTTグループが開催しているNGNフィールドトライアルの一環で設置されている大手町ショールームNGN Open Trial Exhibition,略してNOTE)を見学してきた。

帯域をギリギリに設定してある回線に複数のビデオ・トラフィックを流して,高優先クラスとベストエフォートクラスの映像の違いを見せることでQoSの効果を説明してあったりして,技術的なバックグラウンドのない人でも,NGNのありがたみを実感できるように工夫されていた。ただ,逆に言えば,既存のインターネット技術について,多少なりとも勉強した身としては,NGNでなければ絶対にできないと断言できるようなアプリケーションについての展示は乏しかったように感じた。
インターネットでは,今後IPv6の普及によってIPv4では難しかった,End-to-Endの暗号化(すなわちトランスポートモードのIPSec)が容易に利用できるようになる。(通信サービスの普及に先行して,Windows Vistaでは標準でIPv6を使用して通信するようになっている。)また,アクセス網とバックボーンの両方で広帯域化が進むことが予想され,遅延やジッタ以外の,スループットやパケットロスという意味でのQoSは次第に必要性が低下する可能性も指摘されている。
特に,今回の展示では,解説してくれたコンパニオンが発したキーワードの中で,"NGN"の次に多かったのが"QoS"だったので,NGN = QoSのように感じられてしまい,展示されている程度のアプリケーションについては,「だったら,インターネットでもできるよ」と天の邪鬼的に考えてしまった。
たとえば,NGN for Societyというコーナーの介護ヘルスケアでは,「高い回線品質と、NGNの発信者IDを使って、プライバシーを保護しながら安全な介護・ヘルスケアを実現。」との説明があるが,就寝中の呼吸データや脈拍数を送信するのに,ミリ秒単位のリアルタイム性が必要だろうか。また,プライバシーの保護についても,既存の暗号化プロトコルや認証プロトコルでは不十分なのだろうか。

もちろん,「電話」という最重要アプリケーションの文脈において,加入電話網を置き換えるという意味でのNGN構築は不可避なものであるし,アクセス系の発達を上回るだけの帯域を消費する未知のアプリケーションが出てきて,QoSが現在以上に重要になるなど様々な可能性が考えられる以上,NGNは意味がないなどと言ってしまうのは暴論だ。しかし,いかにもインターネット的なサービスをわざわざ囲い込んだ世界で行うメリットを強調するためには,課金や制御という動機を持たないエンドユーザに対しても,もう少し強いアピールを持ったアプリケーションが必要ではないかと感じた。
NGN印を付けた情報家電を売る立場の電機メーカが喜ぶのはもっともなことだが,一般利用者が置き去りにされたままで,このまま一般に"NGN"という単語が知れ渡ることになるとしたら,単なる商業的なキーワードに成り下がった「ユビキタス」のようになってしまうような気がする。

電話はなぜつながるのか 知っておきたいNTT電話、IP電話、携帯電話の基礎知識

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